第72章 欲しいもの
ぐるるるる!
ギュゴガピピ!
ゴリゴリゴリ!
ぎゅるるる!
病室に不釣り合いな、盛大な腹の音が響き渡る。
「ちょっとちょっと看護婦さーんッ!!」
あまりの騒音に根を上げて、両耳を塞いだまま叫んだ。
「クロちゃんの腹がうるせぇさー!!」
此処って病室だよな!?
病人が安息するための場所だよな!?
全然眠れねぇんだけど!
寧ろ此処にいたら不眠とストレスで気が可笑しくなりそうなんだけど!
「困ったわねぇ。何か食べてもらいたくても、起きないことにはどうにも…」
クロちゃんが寝かされたベッドを前に、溜息をつくのは看護婦さん。
いやいや、じゃあせめて別部屋に隔離とかしろよ!
重傷者なんだし、集中治療室とか特別待遇でいいだろ!
じゃねぇとオレが重病者になりそうさ!
主に不眠とストレス過多の鬱病とかで!
「私は聴覚が良い分、きつい…」
顔面蒼白でベッドの上で項垂れてるのはマリ。
盲目のマリはその分、イノセンスを使った聴覚で人の心音を深くまで聴くことができる。
そんなマリにこの騒音は、地獄だろうな…。
「こんな所で寝られるか」
「あれ?何処行くんさユウちゃん」
「自室に戻る」
額に青筋浮かべて、病室を出ていこうとしてんのはユウだった。
一応、オレらまだ退院許可されてないけど。
勝手に出てったら、婦長に大目玉喰らうさ。
…って言っても聞かねぇんだろうな。