第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
バタバタと駆け寄るコムイ室長の後ろには、科学班や医療班の面々も見えた。
「南!お前体上手く動かないのに勝手に…って何やってんスか元帥…!」
「あん?支えてやってるだけだろ」
勿論その中には、リーバー班長の姿も。
す、すみません…班長。
「リ、ナ…リーの…髪が…!?」
「お、落ち着いて兄さん。私は無事だったから」
そこに休むことなく、今度は室長の驚愕の声が上がる。
ああ、やっぱり。
見れば顔面蒼白でリナリーを凝視する、ムンクの叫びのような顔した室長がいた。
…凄い驚き。
わかるけどね、気持ちはわかるけどね。
「な、泣かないで兄さんっ」
体をふるふると震わせ始める室長に、リナリーが慌てて静止をかける。
誰もが号泣でもするんじゃないかと思う、そんな室長の姿。
だけどその目に涙は浮かばなかった。
「………うん」
不意に静かになる声。
一つ、深呼吸をして。
次に見えた室長の顔は…笑っていた。
優しい笑みを、その顔いっぱいに浮かべて。
「おかえり、リナリー」
その声は酷く優しい愛情のこもった声。
「──っ」
コムイ室長が、両腕を広げる。
その姿に息を詰めたように目を止めたリナリーは、瞬間。
「っただいま…ッ」
くしゃりとした顔で、その胸に飛び込んだ。
エクソシストとしてじゃなく、きっと一人の女の子として。
"家族"として、その言葉を口にして。
…うん。
やっぱり、いじらしいと思う。
いじらしくて温かくて儚い程に綺麗な二人のその姿に、気付いたら自分の顔も綻んでいた。
「医療班はとりあえず応急手当だけ先に頼むっ」
「うわッこれが方舟!?なんか紙上のイメージと違う気が…っ」
「つーか皆、団服ボロボロだなぁ…新しいの作んねぇと」
「でも、ま。とりあえず───」
バタバタと一気に騒がしくなるその場。
だけど皆、その顔には一様に笑みが浮かんでいた。
それはきっとコムイ室長や私と同じ。
ずっと待ち焦がれていた、その言葉を口にする為に。
「「「「おかえり!」」」」