第71章 〝おかえり〟と〝ただいま〟
コンコン、
『どうぞ、入って』
「しつれいします」
中からの声を確認して、背伸びしてドアの取っ手を回す。
室内に入れば相変わらず、大量の資料が床に散乱していた。
教団で一番偉い人の部屋である、司令室。
「よく来たね、南くん。其処座って」
「あ、はい」
仕事終わりに呼ばれてやってきた其処で、にっこりと笑顔でソファに促したのはコムイ室長。
促されるままに、室長の机の前に置かれたソファに座る。
同じく司令室にいたリーバー班長が、室長から何か受け取って…ん?
「ほら、南。待たせて悪かったな」
「これは…?」
渡されたのは、一本の試験管。
「南くんの体を元に戻す解毒剤だよ」
「えっ」
思わず声が上がる。
本当にっ?
「ほ、ほんものですかっ」
「あはは、偽物なんて渡さないよー。リーバーくんに殺されちゃう☆」
「自覚があるなら、自重して下さい」
ばちんっとウィンクかます室長に、ジト目を向ける班長の態度は相変わらず。
殺すまではいかないと思うけど、怒られるとは思いますよ。
というか流石に私が怒りますよ、その時は。
「僕の計算は間違いないだろうから。ちゃんと元に戻ると思うよ」
確かに、コムイ室長は科学者としての腕も凄く立つ人。
そんな室長がそう言うのなら、きっと間違いはない。
「あの…っのんでもいいですか?」
「うん、いいよ」
試験管に入っているのは、液体状の解毒剤。
となればこの場ですぐ摂取できる。
ずーっと子供の体だったから、今すぐにでも戻りたくて思わず興奮気味に問い掛ければ、室長はにこにこと笑顔で頷いてくれた。
「ありがとうございます、いただきますっ」
「あ!ま、待て南っ」
え?
くいっと試験管の中身を口の中に煽るのと、はっとした班長が静止をかけるのは同時だった。
何、なんですか。
また室長が何かやらかしたん───
ぼひゅっ
そんな間抜けな音を立てて、一気に目の前が真っ白な煙に包まれた。