第70章 その言葉を交わすために
ドン!と槌をオレの目の前の地面に突き立てる。
「オレの未熟さの所為さ…この落とし前はキッチリつけさせてもらう!!」
カッとオレの足場周りに浮かぶ"火"の文字。
…悪いなアレン、散々怪我させちまって。
ロードの夢に心を呑まれかけたオレは、みっともなくアレンに手を出してしまった。
オレにズタボロにやられても攻撃し返さないとこ、本当紳士っていうか…お人好しっていうか。
…アレンのそういうとこ、オレ嫌いじゃねぇさ。
「ラビ!待って…ッラビ!!」
オレの火判で捉えたアレンは、その炎の蛇の中。
温度調節はしてるから、熱くはねぇだろ。
そこから呼びかけてくるアレンの静止を待たず、
「火加減無しだ!!!」
───ゴッッ…!!
足場から噴き出た今日イチの炎は、オレを貫いた。
「自分に攻撃を…ッ」
「ラビッ!」
「ラビー!!」
チャオジーの声と、リナリーの声と、アレンの声。
そんな皆の声を耳にしたような気がしたけど、すぐに炎の熱気が耳元に渦巻いた。
熱っちぃ…こりゃー…死ぬなぁ…
"ラビ"
………南…
もうその声で名前を呼んでもらえないのかと思うと、胸が鈍く痛む。
きっと待っていてくれてる。
オレ達の帰りを。
…待たされる者の気持ちを、オレは知らねぇけど…きっと待つ側の方がきつい。
見送った者の背中を見続けることしかできないから。
そんな南の姿を思うと、更に胸が軋んだ。
振り返って、その体を抱きしめてやりたいのに。
"ただいま"って一番に伝えたいのに。
「くっそぉ…!死なせるもんかぁあ!!」
ゴウゴウと鳴る炎の音の合間に、アレンの声が微かに届く。
───ラビ…!
オレを呼ぶ声。
───ラビ!
何度も、何度も。
───ラビ!!
そんなに呼ばなくてもわかってるって。
だから…あんま呼ぶなよ。
ガラにもなく、嬉しいって思っちまうから。
「───…」
鉄槌を掴んだ手に、誰かの手が触れた。
ような、気がした。