第69章 夢世界
「──っ」
思わず息を呑む。
声が出せないオレの顔を、じっと見上げてくる暗い南の瞳。
ユウやリナリーと似た色なのに、吸い込まれそうなその色は全く別物にも見える。
それは南だけがオレに魅せる色。
「私を紙の上のインクにしないで…」
切に願うような声に、胸の奥が鋭く痛む。
…違う。
南をただの"記録"なんかにしたい訳じゃない。
ブックマンとして生きていこうと決めていた中で、オレが唯一、手にしたいと思えた人だから。
「…ラビ」
そっと小さな手が胸元に何かを掲げる。
そこに握られていたのは大きなナイフ。
南には不釣り合いなそれを胸元で手にしたまま、小さな体は呆気なくオレとの間にあった僅かな距離を詰めた。
「っ…ぐ、」
竦んだ体は、その呆気ない動きを避けることもできなくて、とす、と小さな体がオレの腕の中に収まる。
同時に胸への鈍い衝撃。
「…ご、ふッ」
オレの口から溢れたのは、真っ赤な自分の血。
───安心しろ
───"お前"が死んでもブックマンは絶えない
───"オレ"こそ本当の"お前"だからな
頭の内で声がする。
傍に立つもう一人の"オレ"が嗤う。
「ブックマンは"オレ"が継ぐ。"お前"は消えろ…"ラビ"」
ぐらりと体が傾く。
崩れ落ちる自分の体に、最後に見えたのは──…
「さよなら…ラビ」
無表情にオレを見下ろす南の姿だった。