第63章 葛藤と決断
南が泣いたなんて、一体いつなのか。
神田と約束を交わしたところも、俺は見ていない。
今朝俺が起きた時にはもう、南も神田も先に起床していた。
その時なのか、わからないが…その内容が気にかかる。
「約束って、一体───」
「…チッ」
問い掛ける前に、舌打ちをした神田が体ごと俺に向き直る。
なんだよ、急に舌打ちして。
そしてまた怖い顔してるぞ、お前。
「あいつはお前の為に一人で立ってんだよ」
苛立ち気に吐き出された言葉は、どこか曖昧だったが…なんとなくその意味はわかった。
ジジは違うと言ったが、それでも南は他人を気遣う奴だから。
……俺のことを気遣ってくれているのは、わかってたから。
「…10分だ」
「え?」
「10分だけやる。それ以上は目を離せない。あいつが起きてる今だけだ」
「今って…起きたのか?南」
ドア越しの気配なんて俺には全くわからないが、神田はどうやら気配で起きたことに気付いたらしい。
「ありがとう、神田」
横を通り過ぎていく神田に礼を言えば、その目は通り過ぎ様に俺を見て。
「触れるなよ、斬るからな」
ギロリと、一瞬殺気を放った。
……本気だなこれ。
「………」
神田の後ろ姿を見送って、すぐには目の前のドアに手を伸ばすことができなかった。
でも神田は10分しかくれないって言ったしな…あまり悠長にもしてられない。
コンコン、
控えめにドアをノックする。
「…南、俺だ。…入ってもいいか?」
ドアの取っ手に手を掛けながら問えば、簡単にその取っ手は回ってカチャリと開く。
「……南?」
電気の消えた、暗い部屋。
二人用のその部屋の、奥のベッドの上で小さく動く影。
「……リーバーはんちょう…?」
廊下から漏れる光で、薄らと見えた南の顔は。
「え、と……おはよう、ございます…?」
起きたばかりで時間間隔でも狂っているのか。
首を傾げつつ挨拶しながら───…ぎこちない顔をしていた。