第62章 名前
大型客船から降り立ったのは、中国という広大な地。
「おおっ久しぶりだなー、この空気!」
「はぁ…やっと中国か」
「ですね…」
ぐぐっと気持ち良さそうに伸びをするジジさんの隣で、肩を落とすリーバー班長と私。
色々あったから、凄く長かったように感じる。
昨夜の出来事で破損した船の内部は、昨夜のうちに班長が教団本部と連絡を取って請求を済ませていてくれたらしい。
お陰で船員さん達からのお咎めは何もなかった。
「そんな所でボサッと突っ立ってないで、さっさと駅に行くぞ」
そんな私達に、サクサクと足を進めながら急かすのは神田。
元気だなぁ…私は寝不足なんで、眠いです。
「今日はこの町まで行けば、もうアジア支部も目と鼻の先だな」
「さいごのねとまりですね」
「旅行ってなんでこう、最終日になると物哀しくなるんだか…」
「旅行じゃねぇよ」
リーバー班長が広げた地図を、皆で覗いて主々に言いたいことを言う。
この雰囲気は、船に乗る前と変わらず皆いつも通り。
そう、皆何も変わらない態度で私に接してくれていた。
それは内心、私には助かっていた。
気遣ってくれるのはあり難いけど…やっぱりそれは申し訳なくも思うから。
「この列車で一本で行けるな。よし、行くか」
地図を畳んで顔を上げる班長に、皆も続く。
アジア支部に着けば、きっと忙しくなる。
そうなればこの心に構う余裕もなくなるだろうし…そっちの方がきっと楽。
教団を出た時は、アジア支部までかかるこの三日間が班長が体を休められる、貴重な三日間だと思っていたのに。
今は何よりも早く、アジア支部に到着することを願う自分がいた。
「………」
というか、結局色々あったから班長もそんなに休めてない。
班長の為を思って任務同行を頼んだのに…結局教団内で働く以上に、疲れさせてしまった気がする。
「…はぁ」
なんか色々空回りしてる。
それがちょっと悲しくて、思わず溜息が出た。
「どうした、南。疲れたか?」
そこにひょいっと隣から顔を覗き込んできたのはジジさん。
急に視界に入ってきたドアップに、思わず足が止まった。