第59章 大人の遊び
「ッいって…!」
痛々しい打撃音がしたかと思えば、突如弾けたノアの顔。
額を抑えて呻くその姿に、声を上げる間もなく驚いた。
え、何。
パタパタ…
耳元に届いたのは何かの羽音。
目の前にふらふらと浮かんでいたのは───
「…ゴーレム…?」
黒い球体に、蝙蝠状の小さな羽。
それは馴染みあるフォルムだった。
神田の連れてる通信ゴーレムとは違うけど、でも確かにこのフォルムは教団で扱うゴーレムのものだ。
「いきなりなんだコレ。蝙蝠?」
恐らくそのゴーレムが、額に激突したんだろう。
赤くなった額を抑えながら、ノアがジト目で目の前のゴーレムを見る。
ふらふらと覚束ない様子で飛ぶゴーレムは、きょろきょろと一つだけの目をさ迷わせて。
「ふわ…っ!?」
私を捉えたかと思うと、急に突進してきた。
小さな羽をバタつかせて、私の顔にぐりぐりと球体を押し付けてくる。
な、何…!
「うわ…南ちゃんに蝙蝠が盛ってる」
「ッそんなわけないでしょ!」
まじまじとその様子を見て阿呆な発言をしてくるノアに、思わずツッコむ。
何をどうしたらそう解釈できるの、本当に頭おかしいからこの人っ
「じゃあなんなのコレ。今は南ちゃんとお楽しみ中なんだから、邪魔しないでくれるかなー」
バタつく小さな蝙蝠の羽を、ノアが指先で摘まむ。
するとピィピィと、それは高い声で鳴いた。
見た目は通信ゴーレムに似てるけど、更に小柄なそれは見たことがなかった。
一体、誰のゴーレムなんだろう。
『南…っ!』
呼ぶ声。
ドンッ!と強い音がドアの向こう側から響く。
───え?
思わずノアと共に、一つしかないそのドアへと目を向ける。
『此処にいるのか!?おい、南!いたら返事しろ!!』
ガチャガチャと、鍵の掛かったドアの取っ手が何度も回される。
間違いない、この声は。
「リーバー…はんちょう…?」
確かに、その人のものだった。