第59章 大人の遊び
クチュクチュと、厭らしい唾液混じりの水音が響く。
舌で濡らされた肌は外気に触れて、ぶるりと無意識に震えた。
「ぁ、や…ッ」
首筋から胸元へと下りていく唇。
皮膚の薄い部分ばかりに触れる唇は、不快なものでしかないのに。
触れた部分から熱を帯びるような感覚に、恐怖が増した。
私の体なのに、まるで私の体じゃないような感覚。
「今度はどう?気持ちいい?」
「んッ…しらな…っへん、たい…!」
「へーぇ。まだそういう口を叩ける余裕あるんだ。…でも体は、正直みたいだけど」
胸元に触れる手。
さっきと同じ行為は薄ら寒いものしか感じない。
感じないはずなのに。
「ッ、ふ…ぁっ」
「ほら、体ピクピクしてる。可愛い反応」
執拗に何度も胸の先を指先で転がされて、体が僅かに跳ねる。
嫌だ、こんなの。
片手で心臓を握られて、"死"を隣で感じているのに。
そんな相手に、こんなことされて反応するなんて。
「っ…ぅ…ッ」
強く唇を噛み締めて、思わず泣きそうになる。
そんな私を組み敷いている相手なのに、触れる手は酷く優しかった。
「大丈夫、可笑しなことじゃないよ。気持ち良いことに素直に体が感じるのは、人として当たり前のことだから」
「ちが…ッかんじて、ない…っ」
「そう?」
首を強く振れば、徐に大きな手が私の顎を掴んだ。
「感じてないなら、こんな顔するかな」
「ッ…!」
「到底、子供じゃしない顔してるよ。今の南ちゃん」
顎を掴んで覗き込んでくる金色の目は、ゆらゆらと揺らめく。
妖艶に色を含んでいながら、酷く狂気染みた目で。
「えっろい顔」
無情に突き付けられた言葉に、息を呑んだ。
───嫌。
「いや…ッやだ…!はなして…ッ!」
心臓を握られている恐怖より、自分の体を好きにされる恐怖の方が強くて必死に体を暴れさせる。
そんな顔してない。
そんな顔するはずがない。
こんなノア相手なんかに。
───嫌だ。
「あーあー、あんまり騒ぐなって。AKUMAに見つかるだろ」
「しらないそんなの…!」
寧ろ見つかればいい。
こんな姿を見られるのは抵抗あるけど、それでもこの状況から脱せるなら。
もうなんだっていい。