第57章 鬼ごっこ
「あーあ。折角ロードから隠れてたのに」
浅黒い肌に、金色の目。
黒い癖毛の隙間から見える、額の十字の聖痕。
間違いない。
この目の前にいる人物は、ノアの一族の一人。
〝ノア〟
それは人類最古の使徒である遺伝子。
それを色濃く受け継いだ者だけが、超人と呼べる程の力を持つことができる。
超人だけれど、その正体は"人間"。
あの千年伯爵もその一人だと情報で聞いた。
「ロードの面倒頼まれてたけど、傍にいるとすぐ悪戯してくるからさ。隠れて監視してたんだよ。知ってるだろ?あいつの悪戯気質」
屈んで目線を合わせたまま、深々と溜息をついて愚痴ってくる。
じゃあ昼間に監視員を装って話しかけてきたのは、私にというより…あのロードに対してだったのかな。
というかそんな気質、知らないから。
Sっ子なのは知ってるけど。
「どうしてくれんの」
「って、わたしのせいっ?」
「勿論。大事な変装道具を傷付けたのは、南ちゃんを助けたからだし」
じゃあ助けなければよかったんじゃ…とは、流石に言えなかった。
あの場でこの人が現れなかったら、私の命はなかったかもしれない。
…でも。
「ってことで。罰として俺とも遊んでくれる?」
にっこりと笑う顔は酷く整っていて、一瞬見惚れる程のものだったけど、有無言わさない"圧"があった。
逃げられない部屋でノアと二人きりなんて、ある意味AKUMA以上にタチが悪い。
「大丈夫、痛いことはしないから」
「いやです」
透き通るような金色の目を睨み返す。
きっぱり断れば、その顔は面白そうに笑った。
「俺のもう一つの名前、"快楽(ジョイド)"っての。どうせやるなら、楽しいこととか気持ち良いことの方がいいだろ?」
…ジョイド?
聞いたことのない名前。
でもその説明からして、良い意味ではないことは明白だった。
「だからさ、」
首を傾げるように、軽く横に倒して。
「俺とイイコトしよ?」
もう一度、見惚れる程の綺麗な顔で、にっこりとその人は笑った。