第56章 想いの形
「南達、まだ捜してんのか…」
宛がわれた船内の部屋から窓の外を見る。
真っ暗な夜空は広い海の上で、綺麗な星空を見せていた。
友達になったという少女は、まだ見つからないのか。
二人が帰ってくる気配はない。
「なんだ、気になんのか?…お前ちょっと、南に対して過保護過ぎやしねぇか」
思わず漏れた声はベッドで寛ぐジジに聞こえていたらしい。
視線を向ければ呆れた顔がこっちを見ていた。
「別に、子供扱いなんてしてねぇよ」
それは本心だったから素直に言い返す。
寧ろ子供扱いしてんのは、お前だろジジ。
「そういう意味じゃねぇよ。任務から帰った時も、飲み会の時も。お前南の傍についてたろ」
「…お前らが揉みくちゃに絡むからだろーが」
ベッドに横になったまま頬杖をついて顔だけ上げたジジのニヤけ顔に、なんとなくむっとする。
同じ科学班として可愛がるのは別にいいが、手加減ってものをしろよな。
「じゃあ優しく愛でる分には、文句ねぇんだ?」
「…何が言いたいんだよ」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるジジに、居心地の悪さを感じて視線を逸らす。
手持ち無沙汰に、買ってきたソーダに口を付けた。
「俺だって可愛い部下を愛でたいのに、いつも怖ーい顔した上司が見張ってるからな。どうしたら許しを貰えるかと思って」
「許しても許さなくても、好きに絡みに行くだろ」
「あ、バレた?」
ジジの考えなんてわかる。
だが単純思考そうに見えて、時々その笑顔の下でなに企んでるのかわからない時もある。
こいつは昔っから、そういう奴だった。
俺の新人時代、よく仕事でヘマをすれば盛大に笑ってからかってきた癖に。
その反面、助言もきちんとしてくれた。
掴み所のない先輩、というのが第一印象だったかもしれない。
「だってさー、あいつ可愛いんだもんよ。うちんとこにも蝋花っていう部下がいんだけどさ」
「蝋花?ああ…確か、」
一度、アジア支部に赴いた時に見たことがある。
眼鏡に黒髪を二つに結んだ小柄な女性。
白衣姿は一緒だが、女性特有の可愛らしい髪飾りや、スカート姿。
普段仕事で身形を気にしない南に比べると、随分対照的に女性らしい女性だった気がする。