第54章 友達のお誘い
「わぁ、ひろいレストランですね…っ」
「迷子になるなよー?」
「こどもじゃないから、だいじょうぶです」
からかうように言ってくるジジさんをあしらいながら、目の前の光景に思わず胸が弾む。
夜、この大型客船のレストランは沢山の人で賑わっていた。
お洒落に演出された広いレストランは、自分が場違いかと思うくらい高級感がある。
任務となれば旅費は全部教団持ちだから、お金の心配なんてしなくていいし、悪い気もするけどお得な気分。
「バイキング形式だから、南は席で待ってろ。俺達で取ってくるから」
「すみません、おねがいします」
悪い気はするけど、この体じゃお皿運ぶのも邪魔にしかならなさそうだし。
リーバー班長のお言葉に甘えて、私一人だけ指定されたテーブルで待機することにした。
「勝手にほっつき歩くなよ」
「だいじょうぶ」
子供じゃないんだから。
念を押す神田に応えて、自分の椅子に座る。
「こんどはおそば、あるかなぁ…」
神田の好きなお蕎麦。
これだけ豪華なレストランだから、あればいいけど。
そんなことを思いながら、机に両頬をついて待っていると。
「あ!見つけた~」
お昼に聞いた、あの高い声が耳に届いた。
「やぁっほ~。また会ったね♪」
「…あ」
軽い足取りで駆け寄ってくるのは、出店の前で出会った黒髪ショートの女の子。
お昼と同じロリータファッションで、その手にはまたもや大きな棒つきキャンディが握られていた。
好きなんだ、それ。
「捜してたんだ。お友達になったのに、名前教えてもらってなかったから」
…そういえば。
「えと…みなみっていうの」
「南?変わった名前だねぇ。どこの人?」
「いちおう、にほんじんだけど…」
「日本っ?」
知ってる国かは、わからない。
でもその子には認識ある国名だったらしい。
ぱっと笑顔になったかと思えば、ぎゅっと手を握られた。