第53章 友達の印
慌てて手を伸ばしても、ひらひらと頭上でパーカーを振ってジジさんはにこやかに笑うだけ。
この人、一応私の上司みたいなものだけど。
この人、一応私より偉いけど。
少しだけ殴りたくなりました。
「よし、んじゃその格好でリーバーんとこに───」
ゴィン!
突如視界からジジさんの頭が凹んで消えたのは、これで二回目。
「何阿呆なことしてんだ、テメェ」
「~っ…!よ…予想外のとこから…きたな…」
頭を抱えて蹲るジジさんの後ろで、顔を顰めて拳を握っているのは神田。
「餓鬼相手に遊んでんじゃねぇよ、さっさと返せ」
「ま、待て神田。ちょっとした確認実験というか。な?すぐ終わるから」
「意味不明なこと言ってんじゃねぇよ、殴るぞ」
「もう殴ってるからな!」
私、餓鬼じゃないけど…うん、まぁいいや。
今回はどうやら、神田は私の味方をしてくれてるみたいだし。
拳を握る神田に、頭を抑えたまま後退るジジさん。
本当、一番年上なのに。
一番好き放題してるというか…。
「何やってるんだ」
その時。
後方から届いたのは、どこか呆れた声。
知った声に慌てて振り返れば、騒ぎを聞きつけたのか。
少し焦ったように、早足にこっちに向かってくるリーバー班長がいた。
大変、読書の邪魔してしまった。
「南、ちゃんと着とけって言ったろ。上着」
「あ、えと…ジジさんが…」
「ジジ?」
「げっ!なんでもないっ!ほらよ、南!!」
「もぷっ」
ジジさんの名前を出せば、ピクリと班長の眉が寄る。
瞬間、物凄い早さでジジさんに取られていたパーカーを被せられた。
「…ジジ?お前何やったんだ」
「なんでもない、なんでもない。南と神田と仲良く遊んでただけだ。なぁ?」
「ジジがそいつからかって遊んでただけだ」
「おまっ!俺を売るなよ!」
しれっと真実を語る神田に、班長の眉間の皺が更に寄る。
ジジさん、今回は貴方が悪いです。