第50章 水の揺りかご
やがて人混みを抜けると、開けた場所に出た。
周りから聞こえる、楽しそうに遊ぶ人々の声。
肩まで浸かった水温は、丁度良くて気持ちいい。
キラキラと水面で太陽の光が反射して、視界を明るく照らす。
「…せっかくだし、もうちょっとここにいてもいい?」
周りで遊んでいる人達みたいに、何かするわけでもなく。
ただ水に浸かっているだけだけど。
「ひざしがあついから、ここ、きもちよくて」
初体験だと神田が言っていたから、この場からすぐに離れたくなかった。
どうせなら、もうちょっとこのまま浸かっていたい。
私の為にと言えば、神田は意外にも嫌な顔をせずに、その場で足を止めてくれた。
「どうせなら、うきわがほしかったかなぁ…ぷかぷかしてるだけでも、きもちいいんだよ」
「やめとけ。今のお前の大きさじゃ、流されてくだけだ」
「…いえてる」
…確かに。
でも、このまま神田の腕に半ば抱えられてるのも…その。
少し、恥ずかしい訳で。
「…かんだ」
「なんだよ」
そうっと顔を伺う。
どこともなく、適当に周りに視線を向けていたその目がこちらを見る。
楽しんでるかどうかなんてわからない。
神田が笑った顔なんて見たことないし、その無表情からは感情も定かに読み取れない。
迷った挙句、つい零れたのは苦し紛れの笑顔。
「…プール、きもちいいね」
だけど、その言葉に意外にも神田は顔を顰めることなく。
じっと見てきた黒い眼は、不意に宙へと上がって。
「………悪くはない」
ぽつりと
確かにそう、口にした。