第48章 おやすみの、
うつらうつらと、小さな頭が僅かに揺れる。
「…南?」
「っはい」
声を掛ければハッと顔が上がって、また黙々と書類整理の作業に取り掛かる。
あー…うん。
眠いんだろうな。
中身は大人でも、体は小さな子供。
感じる疲れも、きっと大人より多いんだろう。
「もう寝ろ。整理なんて後でもできるから」
「…いえ」
言えばいつもは素直にすぐ頷くのに、ふるふると小さな頭は横に振られた。
「はんちょうがねるところ、かくにんしないと。ねれません」
「…ちゃんと寝るよ。これ終わったら」
「じゃあ、はやくおわらせてください」
眠たそうに半分瞼が落ちた顔でこっちを見上げてくる南は、簡単に折れそうになかった。
俺に体を大事にしろと、拙い言葉で言ってきた南。
そんなこと南に言われたのも初めてだったが、教団内の誰かにはっきりと心配そうに言われたのも、初めてな気がする。
「はんちょう、てがとまってます」
「あ、悪い」
ジト目で見てくる南は眠気が勝っているからか、いつもの丁寧さが欠けて、素の部分が見えてるように思う。
その拙い言葉で急かされる状況は、感じたことのないもので…なんだか心地良かった。
誰かにこうして親身に心配されんのは、悪くないな。
「きょうひととおりおわらせたら、あしたはちゃんとねれますか?」
「ああ。出張なんて久々だからな。偶にはゆっくり休ませてもらうよ」
視線は計算表に落としたまま、化学式を解いていく。
本当は今日中に全部終わらせるつもりだったが、それじゃこの小さな監視役が心配するからな。
やめておくか。
「…よかった」
俺の言葉に、心底安心したように南が息をつく。
仕事を手伝うと言った時といい、時々感じていた今日の南の視線は、気遣い伺うものばかりで。
最初は慣れない俺との出張だからかと思っていたが…そうじゃなかったかもしれない。
南が他人を気遣う奴なのは、よく知ってる。
でも今回は、いつも以上に心配そうに見えた。
…自惚れじゃないが。
胸の奥が温かくなるのは、どうにも止められそうにない。