第46章 父と娘
アジア支部に出発する、任務当日。
「じゃあ後のことは宜しく頼む」
「はい。室長のことは任せて下さい」
「サボってたら、遠慮なく殴っていいからな。あそこの引き出しにリナリーの写真あるから。いざって時は使え」
「了解」
てきぱきとハスキンさんに指示を出していくリーバー班長を見上げる。
その支持のほとんどがコムイ室長関連。
まぁ、そうだよね。
いつも班長が、室長の首に縄付けて仕事させる役割だったから。
「南も気を付けてな。班長が一緒だから、大丈夫だろうけど」
屈んで、視線を合わせてくれるハスキンさん。
仕事に厳しい班長に対して、班長補佐のハスキンさんは、いつも優しい穏やかな人。
この二人だから丁度よく、調律ができてる気がする。
「はい。それじゃあ、いってきます」
「土産よろしくなー」
「バク支部長によろしくー」
皆に見送られて科学班の研究室を後にする。
隣を見上げれば、いつもの白衣姿ではなくスーツにコートなリーバー班長。
…いつもと違う格好をしてるだけなのに。
なんだか見慣れなくて思わず視線を逸らした。
「かんだ、まちあわせばしょにちゃんときてるといいですね」
「ジジがついてるから、大丈夫だろ」
間を埋めるように言えば、サラリと返す班長の言葉に。
そうだ、思い出す。
「───よっス!」
教団の地下水路を出た先。
其処で待ち合わせていたジジさんが、軽く手を挙げる。
アジア支部配属のジジさんも、これを機に戻ることになったんだっけ。
その隣には相変わらず仏頂面の神田の姿が。
どんなに怖い顔してもジジさんは平気で絡んでいくから、ある意味ジジさんがいてくれて助かった。
「ありゃ。南、今日は大人しいチャイナ服だな」
「たびじにワンピースは、ふつごうかとおもって」
ジジさんの言葉に、自分の姿を見下ろす。
今の私の格好は、リナリーに借りたチャイナ服。
だけどいつもの華やかなワンピース型に比べれば、短パン型のそれは大人しい形だった。
こっちの方が色々と動き易いし。