第43章 兄と妹
「じゃあ…けんさ、おねがいします」
「うん、でもその前に」
頭を下げれば、にっこり笑った室長が徐に近付く。
近付けばリーバー班長より背が高い人だから、首が上に曲がる。
痛いんですって、だから。
すると、すとんと室長が腰を落として私の肩に両手を置いた。
なんだろう?
「リナリィイイ!!!!」
「!?」
瞬間、ガバッと抱きしめられた。
何故。
「人違いです」
「ぶべらッ!?」
コンマ数秒。
いきなりの抱擁に驚きの声を上げる間もなく、リーバー班長の拳が室長の顔を殴り飛ばした。
流石。
「ひ、酷いリーバーくん…幼きリナリーを垣間見た僕の感動を、邪魔しないでくれるかな!?」
「人違いです」
殴られた頬を抑えて泣く室長を、同じ言葉で制す。
怒鳴ってる時も怖いけど、静かに怒ってる時が一番怖いと思う。
リーバー班長は。
「いくらリナリーのふくきてるからって、にてませんよ」
それにいくら同じ服や髪型をしてるからって、あの美少女と重ねないで欲しい。
恐れ多い。
「まぁリナリーの方がもっと可憐だったけどね」
……このシスコンめ。
「でも折角大事に取って置いたのに、その服全部リナリーに取られちゃったんだよ…堪能させてくれたって、いいじゃないか…」
地面に"の"の字を書きながら、めそめそと愚痴る室長。
いえいえ。
そんな子供服を大事にコレクションしてる方が、おかしいですから。
「しつちょうがリナリーだいじにしてるのは、ちゃんとつたわってますから。もっとシンプルでいいとおもいます」
なんだかんだ言いながらも、室長とリナリーの兄妹愛は固いものだと思う。
自分の人生をリナリーの為に捧げた室長だから。
誰よりもリナリーがこの教団で守りたいのは、室長なんだと思う。
いじらしいと思う。
いじらしくて温かい。
そんな人だから、班長も私も、ついていきたいと思うんだろう。
例え、はちゃめちゃな上司だとしても。