第41章 交換条件
「───…ぃ、…」
薄らと、瞼の裏が明るい。
「───…ぉ…」
誰かに呼ばれているような感覚。
誰だろう?
「───…ろ、…ぃ、」
途切れ途切れに聞こえる声は、私を呼んでいるようで呼んでいなくて。
ふわふわとした、何かに包まれている感覚。
それが名残惜しくて手離したくない。
もうちょっと、このまま───
「起きろ愚図」
バシンッ!
「いっ…!?」
瞬間、頭に走る鋭い衝撃。
思わず跳ね起きて、目の前に飛び込んできたのは。
「人のベッドで、ぐーすか寝やがって」
「…あ。」
昨日の暴君、その人でした。
「あれ……わたし…?」
平手打ちでもされたのか、じんじん痛む頭を抑えて辺りを見渡す。
神田と出会った深夜。
最後の記憶は、その暴君の素っ気無い部屋の内装だった。
冷たい剥き出しのコンクリート床に、簡易ベッドと棚が一つ置かれているだけ。
棚の上に飾られた薄い色の花が、無機質な部屋で色彩を放っていた気がする。
…それと同じ光景が、目の前には広がっていた。
……そうだ。
昨日見事に神田の背中に嘔吐して、着替える為に部屋に戻った神田は、満身創痍な私をそのまま運んだ。
部屋に着くなりベッドに放られて。
多分神田は、手持ち無沙汰にとりあえず放っただけだったんだろうけど。
散々疲労していた体は、意識と共にその柔らかな布団に沈んでしまった。
…そんな気がする。
「ぉ…おはようございます…」
窓から差し込む光は、爽やかな朝日。
すっかり熟睡してしまっていたらしい。
…だってお布団、久しぶりだったんです。
「おはようじゃねぇよ」
「いたっ」
ペシンッと今度は少しだけ軽めに、また頭を叩かれる。
ちょっと叩き過ぎじゃないんですか。
頭痛がしてるんだから、あんまり──
「…あれ?」
昨日まであんなに鈍く響いていた頭痛が、嘘みたいに穏やかになっていた。
なんでだろう…熟睡したお陰?
朝ってことは、なんだかんだ神田は私を起こさずにいてくれたみたいだし。
……口は悪いけど、根は悪い人じゃないのかもしれない。
口は、悪いけど。
あと手も出るけど。