第40章 幼子と暴君
「わ、と、…っ」
ずるずると、自分の着ていた白衣やズボンを引き摺りながら進む。
やっぱり深夜の教団の廊下には誰もいない。
一枚だけ纏ったシャツは襟幅も広く、ずるりと肩から落ちそうになった。
思った以上に大変なんだけど…っ
「はぁ、はぁ…つかれる…」
子供体力だからか、体を鞭打ったからか。
はたまたさっきから頭に響く、痛みの所為か。
研究室までまだ距離があるのに、息が切れ始めた。
元々黒の教団は広く大きい建物だけど…頭幾つ分も下がった視線では、更に巨大に見える。
「なんで、こんなことばっかり…っ」
肩で息をしながら、荷物を抱え直す。
任務から帰ってきてから、婦長のお怒りを喰らったりコムリンの暴走を喰らったり。
息つく暇もなく色々あってる気がする。
ベッドで眠れたの、まだ一度だけなんですけど…っ
「もっと、こどもようにするべきだとおもう…」
子供に優しくない、教団の建物を恨めしく見上げる。
階段なんて一段一段大きいし、ドアノブも背伸びをしないと届かない。
というか。
誰かに会えば、事情を話して研究室に連れて行ってもらえるかもしれないのに。
面白いくらいに誰にも会わない。
皆さん、まだ深夜2時半ですよ。
起きてましょうよ、夜が本場でしょ。
"黒の教団"なんて重々しい名前してるんだから。
「………だめだ、あたままわってない」
斜めにズレる自分の思考に、溜息。
愚痴れば愚痴る程疲れる気がして、黙って進むことにした。
───なのに。
「……………まじですか」
深夜3時に回りそうな頃。
やっと辿り着いた研究室は、嫌な予感がした通り。
二日酔いで徹夜は無理だったのか、中には誰もいなかった。
…私、苛められてるんだろうか。
神様とかに。
「…もう、ここでまってようかな…」
頭は痛いし、体も痛いし。
シャワー室で倒れてた所為か、若干寒気もするし。
精神的にも身体的にも限界を感じて、研究室のドアの前に座り込む。
柔らかい布団の中で眠れないのは、非常に残念だけど…仕方ない。
「ふつかつづけて、ゆかのうえでねるはめになるなんて…」
神様、私何かしましたか。
何かしたのなら、謝りますから。