第39章 非遺伝的変異
「…いたい」
ぎゅっと強く頬を抓る。
感じる痛みは本物で、思わず顔が歪んだ。
「…でも、なんで…」
鏡の前の椅子によじ登って、まじまじと見る自分の姿は、どこをどう見ても幼い子供だった。
胸元には、薄らと残る任務先で負った怪我の跡。
…うん、やっぱりこの体は私のものらしい。
「…いつ、のんだんだろ…」
科学班の作った薬に、声が猫声になったり頭に兎耳が生えたり、はたまた一気に長髪になったり。
突拍子もない物はザラにある。
最初こそ驚いたものの、この現象は科学班の薬が原因なんだろうと、すぐに結論付いた。
…でも、いつ飲んだんだろう。
変な物を口に入れた覚えなんか──…あ。
「…ずつうやく?」
リナリーに、今朝貰った薬を思い出す。
…いやいや、あのリナリーがそんなことするわけないし。
すぐに頭を振って否定。
あんなに良い子が、そんなことするわけない。
「…じゃあ、いつだろ…」
それ以外で変なものを飲んだ覚えはない。
全然思い当たらなくて、一人頭を抱えていると。
───ズキ、
また、頭に鈍痛。
「ぃた…」
最初はパニックになってたけど、段々落ち着いてくると頭や体が節々痛む。
薬の影響か、お酒の名残りか、シャワー室で倒れたからか。
…多分、全部かも。
「とにかく、かがくはんのところにいかないと…っ」
それでも悠長にしてる暇はない。
時刻は深夜。
誰かが徹夜でもしてくれてればいいけど…あの飲み会で皆、二日酔い状態だったから。
研究室に誰かが残ってる可能性は低い。
急いで服を着替えようと、脱衣した服を取りに行って。
「…うわ」
どうしよう。
広げた自分の服は、着なくてもブカブカなのは一目瞭然だった。
此処に子供服なんて置いてある訳ないし…。
「ど、どうしよう…」
誰もいない、脱衣所で一人。
ポツリと零れた自分の声は、幼く響いた。