第33章 未熟な想い
「どうした?」
「…リーバーはんちょには、一度謝っておかねぇとって思って」
「謝る?」
なんかしたか?
「前に…南のことで、変なこと言っちまっただろ。あれ、オレもガキっぽかったっていうか…悪かったさ。忘れていいから」
頬を指先で掻きながら、気まずそうに言う。
ラビのその言葉に最初はピンとこなかったが、すぐにわかった。
あれか。
"簡単に譲る気はないんで"
ラビが唐突に俺に放った言葉だった。
あの頃は、そんな目で南のことを見たりしていなかったから。
俺もあの言葉に振り回されたもんだ。
思い出して、思わず苦笑い。
「ああ、いや…大丈夫だ。気にしてない」
そうやってきちんと謝罪するところ、ラビもちゃんとした奴なんだなと思う。
けれど、すんなりと自分の口から出た言葉は、そんなラビに対して誠意を持って応えようとした結果じゃなかった。
それは俺の本心。
「寧ろ、感謝してるかな」
誰かに気付かされるのは、少し不服だったけれど。
あれは確かに、思えば最初の"きっかけ"だ。
「感謝?って、どういう意味…」
「仕事溜まってるから、もう行く。じゃあな」
「は?ちょっと待つさ、はんちょ!」
ラビにあの意味深な言葉を放られた時とは、今回は真逆に。
困惑するラビを置いて一人その場を去る。
頭の回転は良い奴だ、そのうち言葉の意味にも気付くかもしれない。
ラビが本当に南に好意を抱いているなら、それを止める気はない。
だけど悪いな、ラビ。
俺も黙って見過ごす気はないから。
「…俺の方がガキかもな」
来た時と同じくエレベーターに乗り込みながら、つい漏れたのは自嘲に似た言葉だった。
俺と南は、上司と部下。
そこを簡単に越えられないだろうとは、思っているけど…。
それだけで諦められる気持ちではないのも、確かだったから。