第32章 〝ただいま〟と〝おかえり〟
「───なので物的証拠ですし、全てそのままにしてます。恐らく村の人達も偽装工作はしないかと…」
「成程ね」
提出した報告書に目を通しながら、うんうんと相槌を打つのはコムイ室長。
黒の教団に帰り着くとそのまま、私達は司令室へ報告に上がった。
…本当はあそこで見た遺体は埋葬してあげたかった。
きっとクロル君の骨もあそこに残っているはず。
でもそれはできなかった。
表沙汰にするためには、証拠として残しておかないといけない。
「ふーん。なんていうか、気持ち悪い任務だねぇ」
「おい」
「なんですか、その感想」
「だってカニバとかさー、怖いじゃないか。君達が食べられなくてよかったよ」
きっぱり、あっさり。
言いたいことを素直に言う室長は、らしいと言うか。
私の両隣に立っていたラビとアレンが顔を顰める。
うん、気持ちはわかる。
わかるけど一番偉い人だからね、この人。
「でも無事で何よりだよ。"彼"の遺体も後で連れて帰るから。見つけてくれて、ありがとう」
ふと、両手を顔の前で組んだ室長の笑みが優しく変わる。
普段やりたい放題な室長だけど。
エクソシストだけでなく、ファインダーや医療班や、私達科学班も。
此処にいる全ての人の命を背負っているのも彼。
…きっと誰よりもその痛みを背負っているのも、この人だと思う。
「お疲れ様。後はゆっくり休んで」
「はー、やっと寝れるさー」
「僕はジェリーさんのご飯が食べたいです」
「………」
報告を終え、司令室を後にする二人に続く。
ちらりと振り返れば、司令室にはコムイ室長しかいない。
…任務の報告にはリーバー班長も同行すること多いのに…珍しいな。
「そうそう、南くん」
目が合うと名前を呼ばれて、ドキリとする。
「君は一度、科学班に顔を出しておいてくれるかい?此処に来たくても来れなかった人がいるからね」
「え?」
それって…
視線で問いかけても室長はニコニコ笑うだけ。
元からそうするつもりだったから、いいけど…。
頭を下げて司令室を出る。
リーバー班長に借りた御守りを返さないと。
…壊しちゃったけど。
「…怒られないかな」
少し、気が重い。