第30章 失いたくないもの
「嘘、壊しちゃった…っ!?」
「守ってくれたんだろ」
「でも…ッこれ借り物だから…!」
声を荒げて怪我が痛んだのか、南の顔が歪む。
「落ち着けって。とりあえず今は先に手当てさ」
「理由を聞けば、貸した人も南さんを責めはしませんよ」
「…う、うん…」
アレンの言葉に、渋々と頷く南はまだ不安げにネクタイを見つめていて。
「…ありがとう、ございます」
不意にそっと、そのボロボロな布切れを胸に抱いた。
感謝の言葉は、多分その御守りを貸してくれた人物にだろうけど…目を瞑り、礼を言うその表情はどことなく柔らかい。
…科学班の皆からの御守りだって、言ってたっけ。
皆からなら…多分リーバーもそこに入ってんだろうな。
「今ある物では、緊急処置しかできません。止血だけして、近くの町に急ぎましょう」
「わかりました。僕は平気ですから、南さんとラビを先に」
このデンケ村から近くの町まで、どれくらいあるかわからない。
トマとアレンの言葉に、急がねぇとと思い立った矢先。
カサ、
不意に、小さな草を踏む足音がした。
「…おねーさん、大丈夫?」
顔を向ければ、安全だとわかって出てきたのか。
其処にはデンケ村の子供達が、不安げな顔で立っていた。