第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
吸い込まれそうな程、深い深い南の瞳。
そこに誘われるように顔を寄せれば、南の見る世界にオレが映り込む。
今、自分はどんな顔をしているのか。
気にはなったけど、すぐにどうでもよくなった。
もう何も見えなくたって、答えは見つけているから。
瞳を閉じる。
雨上がりの澄んだ匂い。
暗い瞼の内側を照らす温かい夕陽。
なんでもないような情景一つにさえ、祝福されているような錯覚の中で。
南と交した静かな口付けは、きっと一生忘れないだろう。
エクソシストとか、ノアとか
聖戦とか、ブックマンとか
オレの周りを立ち囲む壁は幾つもあって
それは簡単には崩れない、分厚い壁だ
それを望んで生きてきた
周りに深くは干渉せず、いつも一歩退いた目で、時には人間の愚かさに見下しさえもして
そんな灰色の世界で出会ったのが、南だった
初めて、ブックマンとしてでも欲しいと思った
初めて、失うことが死より恐ろしいと思った
初めて、無意味とも思える刻を大切にしたいと思った
この先もきっと、分厚い壁は取り囲む
オレと南の間に、何もなくなった訳じゃない
それでも
数多の世界の歴史を見てきたはずなのに
在るべき世界の彩りさえも、変えられると教えてくれた
それは他ならぬ、南だったから
諦めていたオレの手を取って、握り返してくれた
情けないオレの心だって、守りたいと抱きしめてくれた
こんなオレを、ヒーローだと云ってくれたんだ
それならさ
ヒーローはヒーローらしく
困難に向かって格好良く挑んでやろうじゃねぇか
初めて、本気で恋をした
彼女と、ずっと共に笑っていられるように
《ラビED》fin.