第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
…つーか、まだ痛む心が残ってたなんて。
あれだけ覚悟してきたってのに。
本当、未練がましいさな、オレ…。
まぁあれだけ長いこと片想いしてたんだから、そう簡単には消えてくれねぇか。
そんなに簡単に割り切れるもんなら、ここまで苦しんじゃいない。
初めてログの地に身を置いて、オレ自身が戦争に身を染めて。
一番割り切れなくなったもんは、きっと目の前のこの女性だ。
「ここから、仕切り直し」
「…仕切り直し?」
すぅ、と深呼吸して息を整える南の両手が、オレの手を握る。
真っ直ぐに射抜かれるような濡れた瞳を前に、目が逸らせなくなった。
真っ暗な、闇のような東洋人の南の瞳。
リナリーやユウと似ているようで、オレにとっては全く違う。
足を取られて吸い込まれてしまいそうな程、深い色だ。
「最初はラビのことが苦手だった。何を考えているのか、よくわからなくて」
雨音は続いている。
その合間から届く南の声。
「でもそれは、私がラビのことを知らなかっただけで。一つ一つラビの顔を知っていくと、凄く居心地の良い人なんだってわかった」
一つ一つ言葉を選ぶように伝えてくるから、不思議とよく聴こえた。
「誰にでも波長を合わせられるラビだから、私にも合わせてくれたのかもしれないけれど。それでも気付けば隣にいるのが当たり前で、傍にいてくれるのが心地良かった。近過ぎて見えなかったけれど…ラビに惹かれてたんだと思う」
冷えた指先は冷たいはずなのに。
触れた箇所から、何故か熱いものが伝わる。
「そうして、傍にいるだけでよかったのに。いつしか、手放したくないって、思うようになった」
雨音が段々と何処か遠くに感じる。
濡れた南の瞳から、唇から、目が離せなくて。
「いつの間にか、私の中にラビの居場所ができてたの。そこにいてくれないと、胸に穴が、空いてしまうくらいに」
じわじわと体の奥底から感じ出る何か。
自分の心臓が妙に速まっていくのがリアルにわかった。
それって。
その意味って。
「私」
もしかして。
「ラビが、好き」
二度目の言葉は、さっきとはまるで違った。