第23章 声
「なんで此処に…」
「おねえさんこそ、なんでいるの。ここ、危ない」
耳を澄ませないと聞こえない、か細い声。
どこか素っ気無い、子供らしかぬ口調。
それは確かに朝村で出会ったクロル君だった。
一瞬、嫌な予感がした。
このクロル君は、私の知ってるクロル君じゃないかもしれない。
でも問いに問いで返してくる彼は、今朝見た時とまるで雰囲気は変わらなかった。
「クロル君は此処が何か知ってるの?」
問えば、コクリと暗闇で小さな頭が頷く。
「それって、教えてくれないかな」
「…それより、ここから離れないと。ひとりじゃ危ない」
…ひとり?
「なに言って───」
"いるの"
その言葉は続かなかった。
一人じゃないことをクロル君に伝えようとして。
いるはずの、握ったラビの腕に振り返って。
「……ラビ?」
其処には、誰もいなかったから。
「え…なんで…ラビ?」
嘘。
さっきまでそこにいたのに。
腕だってしっかり握ってた。
「ラビっ」
必死で辺りを見渡す。
でも暗闇に慣れた目は、クロル君以外の動くものを捉えない。
なんで。
「…おねえさん、」
くい、と小さな手が再度私の服を引っ張る。
視線を落とせば、こっちを見上げてくる小さな顔が口を動かしたように見えた。
「ずっとひとりで、喋ってたよ」