第84章 オレの好きなひと。《ラビED》
赤い毛色はよく目立つ。
「はぁ〜…コムイの奴も加減しろよなぁ…いくらオレに腕があるからって、連続で任務当て過ぎさ…」
「ダアホ。人手不足だからに決まっとるわ。大体あんな任務、お前の腕なんぞなくても儂一人で充分じゃったわ」
「はぁ!?何寝惚けたこと言ってんさジジイ!オレの鉄槌でAKUMA共を一掃できたんだろ!」
「はて。肝心なところで打撃をミスったのは誰じゃったかのう?」
「ジジイがAKUMAに足引っ張られてるからだろ!」
「引っ張られてなどおらんわ」
「引っ張れてたさ!」
「おらんと言っとろうがじゃかあしい!」
「どっちが!」
談話室の一角で、段々と声のボリュームを上げて言い合っている凸凹な二人組。
いつもセットでいるのが当然の光景になっている、ラビとブックマンだ。
偶々談話室の前を通りかかっただけだけど、足は止まってしまった。
だって、明るい赤毛が目について。
「もういいさ!勝手に言って───」
あ。
足を止めていたのはほんの少しの間なのに、その間に翡翠色の隻眼が私を見つけた。
ブックマンに悪態ついていた声が止まる。
頭に付けたバンダナから覗く明るい赤毛が、ふわりと揺れる。
「南っ仕事中じゃないんさっ?」
私を見つけた途端、弾む声で駆け寄ってくる。
その姿は、本当に大きなわんこみたいだ。
名前はラビだけど。
「うん。ちょっとそこまで、文献を取りに。また仕事に戻るところ」
「ちぇ、そうなんか」
ブックマンに目くじらを立ててたかと思えば、大型わんこみたいに尻尾を振って、それが忽ちに拗ねた顔に変わる。
ころころと表情を変えるラビは見ていて飽きない。
「それより、任務から帰ってきてたんだね。おかえりなさい」
「ん。ただいまさ」
〝おかえり〟と〝ただいま〟
何度もラビと交わしてきたそれは、今ではないと違和感が残る程、馴染んだやりとり。
間近で見るラビの姿はどこも怪我をした様子はなく、そのことにほっとした。