第82章 誰が為に鐘は鳴る
「だからさ、はんちょ。ようやく事件も収束したことだし」
「ああ。休戦協定は終わり、だろ」
再び交わる翡翠と白銅。
あの暗い医療病室の中で交した約束のように、互いの拳は誰の目にも止められることなくこつりと重なった。
───ゴーン、ゴーン
深夜に響く古時計の音。
「だっから…!なんでもないって言ってるでしょ!?それより皆引っ越しの準備はどうしたの、準備は!」
同時に大きく響いたのは、渦中から避難しようとしている南の悲鳴。
ほんの少しの涙と鮮やかに色付いた頬に、目が止まる。
「あー…はんちょ。協定は停止だけどさ」
「…とりあえず目先の問題が先だな」
やれやれと額のバンダナを親指で押し上げるラビに、溜息をつきながらリーバーもまた腰を上げた。
互いに阿吽の呼吸で理解する。
互いに譲れない想いを抱いてはいるが、一先ずはその相手を助け出すことが先決だ。
ゾンビウイルスの蔓延していた空気とは程遠い、明るい光の下で。
「「───南」」
声は、迷わず届いた。