第82章 誰が為に鐘は鳴る
「え。嘘。本当?」
自分で導いた結論に動揺する。
そんな都合の良い話があるのか。
しかしジョニーとの相違点はそれ以外、明確なものは思いつかない。
そもそも医療の専門知識がある訳でもないのだ。
南にとって可能性は未知数だった。
「だとしたら婦長さん凄い…!」
痛みを和らげる為、鎮静剤としての役割も担っていただろう、婦長に特別に処方された薬。
それがもしウイルスの活動も弱めたのならば。
科学班の研究室に突如現れウイルスをばら撒いたのは彼女だが、彼女のお陰で命拾いもしたのかもしれない。
薬を手に歓喜の声を上げる。
そんな南の肩に、ぴたりと何かが触れた。
「っ!?」
動揺と歓喜に油断していたらしい。
驚き振り返った南の目に、しかし予想していたゾンビ化人間は映り込まなかった。
見えたのは、丸く光沢のある艶々ボディ。
「あ…っティム!?」
クロス・マリアンの造り上げた特殊ゴーレム、ティムキャンピーだった。
「吃驚した…っ」
ほーっと大きく胸を撫で下ろしながら、目の前に突如現れたゴーレムを見つめる。
ぱたぱたと瞬く羽音以外に物音は聴こえない。
どうやらティムキャンピー以外に、付近に人はいないようだ。
「ティムだけ?アレンやクロス元帥は…」
「ガァアッ」
「えっと…ごめんね。ティムの言葉私じゃわからないから、誰か人がいる所を知ってたら案内───痛い!?」
痛みは突然だった。
ひらひらと苦笑混じりに振った南の手に、ティムキャンピーが予兆もなく食らい付いたのだ。
甘噛みなどとは程遠い、敵意も感じられる鋭さで。
「え?え…!?ティム!?何を…ッあぃたたた!」
ぎょっと困惑しつつも、痛みに思わず強く手を振る。
しかし鋭利な歯を突き立てたティムは、南の手に頑なに食らい付いたまま離れようとしない。
「ギャシャアァアア!」
「えぇえ…!何その雄叫び…!エイリアン!?」
尚且つジョニー達人間をも超えるような、ゾンビと言うより酸の体液を持つ危険生物に似た鋭い咆哮を上げる。
普段の愛嬌あるマスコットゴーレムからは想像できない姿に、南は目を剥いた。