第18章 地下へ
ザク、ザク、
岩と土の地面を歩く音が、いやに大きく響く。
「地下室かなんかだな。こんなドでかいの作ってたなんて驚きさ」
「地下迷路みたい…」
真っ暗なひんやりとした地下。
暗闇に慣れたとはいえ、微弱なゴーレムの僅かな明かりだけを頼りに進むから足下が覚束無い。
あちこち張り巡らされた通路は私には迷宮だった。
「数字化して道を覚えれば、迷うこともないさ」
この頭の回るブックマン後継者には、大した問題じゃなさそうだったけど。
ある意味ラビでよかったのかも。
アレンだったら一緒に迷子決定だし。
───でも。
「わ…っ」
「っと。足元気を付けろよ、でこぼこしてっから」
「う、うん。ありがとう…」
岩場に躓けば、ラビの手が私の腕を掴む。
なんなく支えられて、その強さを知る。
だけどそれを確認する暇もなく、あっさりと離れていく肌。
…やっぱり。
必要以上に触れようとしないところは変わっていない。
「………」
そっと胸ポケットに手を当てる。
リーバー班長のことを思い出せば、じんわりと心は落ち着くのに、前を歩くその高い背中から目が離せない。
知りたい。
ちゃんと彼のことが。
このまま仮面を貼り付けたままの関係なんて嫌だ。
「…え」
思わず自分の浮かんだ思いに足が止まる。
私…嫌だったんだ。
このまま知らぬフリをすれば、仕事ではラビと上手くやっていける。
エクソシストと科学班としては、なんの問題もない。
でも、それが嫌だった。
無理に彼が貼り付けた仮面を剥がせば、今より関係は悪くなるかもしれない。
それでも、嫌だった。
私が求めているのは出来の良い仕事仲間としてのラビじゃない。
私が求めていたのは───
「…南?」
ついて来ない私に気付いたラビが振り返る。
「どうしたんさ、早く来いよ」
微弱なゴーレムの光に照らされた、彼の顔を真っ直ぐに見返す。
それでも私の足は動かない。
「…ラビ、」
どうしよう。
どうしたらいい。
漠然とだけど掴んだ自分の気持ち。
それに動揺しながらも、気付いたら私は。
「…聞きたいことが、あるんだけど」
そう口にしていた。