第81章 そして誰もいなくなった
「一体誰だ…!?」
「壁を一撃で破壊するなんて…まさかエクソシス───」
「くっくっくっくっ」
「あれは…」
「げっ!?」
一体全体、誰が壁を破壊したというのか。
一同が驚き見る中、アレンから飛び退いた"それ"は低い声で呻くように笑った。
浅黒い肌。
腰にタオル一枚しか巻いていない屈強な体には、あちこち深く大きな傷跡が走っている。
ギザギザとした並びの悪い刃のような歯を見せ笑い、べろりと舌を出す男の顔は、普段はあまり見掛けないもの。
それもそのはず。
囚人であった彼は、普段は鎧のようなマスクをして素顔を隠していることが多いのだ。
元死刑囚であり現エクソシスト元帥である男──ウィンターズ・ソカロという者は。
「ソカロ元帥!?」
「なんで裸なわけっ!?」
「逃がさねェぜェエ、獲物ちゃぁ~ん♪」
「うわ…まさか元帥まで感染したんさ!?」
一斉に上がる驚愕の声。
理解できる言葉を発してはいるが、顔に浮かぶ血管の跡とむやみやたらに攻撃してくる様は、ゾンビ化した他団員達と症状が酷使している。
ソカロという男が元々好戦的な性格であることを踏まえても、アレンだけでなく一般人のジョニーまで巻き込み戯れに襲うことなどあり得ない。
それも適合イノセンスである巨大な両刃付き対AKUMA武器を、フル発動させて持ち合わせているならば尚更。
やはり正気を失っているのか。
ソカロの場合は元々見え隠れしていた本能が、剥き出しになっただけのようにも見える。
「さ…最悪だ…」
エクソシストを束ねる立場の元帥までもゾンビ化してしまえば、それをアレン達で押さえるのは至難の業だ。
切り立った崖に立たされたような、絶望感。
青い顔でふらりとよろめいたリンクは、どんと背中が人肌のなにかに触れた。
「っ?」
後ろに気配はなかった。
何故気付けなかったのかと驚き振り返る前に、リンクの肩をがしりと掴む二つの手。
「うわぁあああ!?!!!」
「ニ"ャーッ!!!」
上がる悲鳴は人のものと、劈くような猫のものだった。