第81章 そして誰もいなくなった
「元気出しなよ、アレン。ワクチンさえ手に入れば助かるさ」
頭を抱えてぐすぐすと涙ぐむアレンを、ジョニーが肩を優しく叩きながら励ます。
そうだ。
どんなに馬鹿らしいゾンビ化なんて状況に陥ったとしても、感染源さえ見つけて抗体を作り出せば全て解決する。
希望は途絶えてなどいない。
「そうかな…?」
「そうさ!」
「そうかしら」
「「…は?」」
(("かしら"?))
ぼそぼそと弱音を吐くアレンを励ませば、微かな声が最後に疑問を残して消えた。
思わずぽかんと、お互いの顔を見合わせる。
確かに聞こえたが、お互いの声ではなかった。
少女のような微かな声。
「ジョニー、今…」
「お…オレは何も言ってないよ…?」
この場にいる女性は二人。
リナリーは人語を今は話せないし、南は今はリーバー達の元にいて離れている。
だとしたら一体誰の声なのか。
聞き覚えの無い声に、アレンが若干顔色を悪くした時。
「───!」
ぴくりと南の獣耳が揺れた。
「悪い子はいねがァアアアア!!!!!!」
「わ…!?」
「うわぁ!」
「アレン!?」
「ジョニー!」
アレンとジョニーがいた背後の壁から、突如何かが固いコンクリートを破壊し突っ込んでくる。
それは一瞬の出来事だった。
吹き飛ばされる倉庫の壁の残骸に、同じく弾き飛ばされたジョニーが倒れ込む。
「っう…!」
「チッ」
危険を肌で察知したアレンが、間一髪発動させた退魔の剣で謎の衝撃を受け止めた。
ナマハゲのような言葉を撒き散らしながら壁を突き破った"それ"は、荒々しく舌打ちをするとアレンの前から飛び退く。
「ジョニー!大丈夫!?」
「う、うん…大丈夫…!」
慌てて駆け寄る南に、驚き座り込んだままこくこくと頷くジョニー。
どうやら外傷を負ってはいないらしい。