第3章 蓮の葉
「準備できたか?」
俺と同じく走りやすい着慣れた装束に着替えた秋夜がこちらを振り返る。
「ああ」
ズキッ…
…なんだ?先程からまとわりつくような頭痛がある。
我慢出来ないほどではないが、気になる。
「じゃあ、行くぞ」
窓から音もなく秋夜は跳んだ。
どうやらそのまま向かいの壁も使い屋根の上に出たようだ。
頭を軽く振り、俺もあとに続いた。
「少し…風があるな」
風上へ顔を向けた秋夜を見て、真っ暗な空を見やる。
そこにはぽっかりと月が浮かんでいて、俺が里を抜けたあの日を思い出した。
目の前の光景はあの日から月日がたったことを告げていた。
そのまま無言で空を見上げているとゆっくりと何かが落ちてきた。
「…秋夜…雪だ」
はらはらと落ちてくるそれはとても冷たくて、今更ながらに息が白く染まっていることに気がつく。
「そういや、最近冷えてきたしな」
…月明かりに照らされたそれは、ぼうっと淡くひかり、まるで…
…まるで狂い咲きの桜の花弁のようだった。