第1章 ザップとわたし
「おい。生きてるか?」
「生、き……てる。ザップは生きてる? 死んじゃわない?」
見れば分かるだろ、生きてるっつの。今夜これ聞くの何回目だ俺。さすがの俺でも呆れて嘆息する。
「まず聞くが、今回はどんな夢見てたんだ?」
「ザップが他の子と心中する夢。わたしを捨てて」
「そーりゃセンチメンタルだ、俺のキャラじゃねーな。言っとくが、俺は生きてるぞ」
開かれたその目には、薄い涙の膜が張っていた。不安げにこちらを見上げるを抱きしめる。
「聞こえるだろ。俺の心臓の音」
「首なら脈じゃん。ばか」
はふにゃりと笑った。この重度の電波女は、笑うと結構可愛い。
ま、その脈の中の血は、まともな血じゃねぇがな。
「お前、笑うの久しぶりじゃねーか。その顔、嫌いじゃねえぞ」
「……ザップ、このまんま寝ていい? そしたらザップの生きてる音が聞こえる……」
「おう、頼れ頼れ」
鼻で笑われた。しかしは、黙って身体を預ける。
他人の腕(かいな)の中で心音を聞けば、は安眠を得られるのだろうか。俺が死んで、起きるたびに生死を確認しなきゃいけない悪夢じゃなく、優しく温かい夢を見られるのか。
気付かれないようにの頬にキスを落とし、おやすみ、とひとりごちる。深く寝息を立てるの顔を見詰めた。胸がきゅうと締め付けられる。
呪いの様な魔法だ。が可愛くて仕様がないのも、奇癖に付き合わざるを得ないのも。寂しがり屋なが、有りっ丈の愛情を俺の心に縛り付けて、今もそのまま。
自分のバカさ加減にやっと気付いた。安眠妨害してくるのはこいつなのに、どうにも俺はこんなのと離れられない。その理由は、『気持ちいいから』だけじゃない気がする。レオがバカだのアホだの言うたびきっちりシメてきたが、これからは手加減してやろう。
視界がだんだん暗くなってくる。もうしばらくはに起こされることは無いだろう。溜息をつこうと思ったが、無理やりそれを飲み込んだ。
(……が起きちまうしな)