第1章 ザップとわたし
「ザップ、ザップ」
「あ゛……? なんだよ、こちとら眠ィんだよ殴るぞ」
「生きてる? 死んでない?」
「うんうん、生きてる生きてる」
最後に見たは、ベッドで穏やかに微笑んでいた。この女とは所謂ワンナイトラブのはずだったが、その人格破綻っぷりに興味が湧いて、ずるずる関係を続けている。
それまでの俺は、事後にはたわいもない話を交わすのが当然と思っていた。しかし、体力のないこいつはそんな概念持ってなかった。果てた直後にスイッチが切れたように惰眠を貪る。そしてたまに起きては、その暗い瞳に俺を映し、安心してまた目を閉じる。
一言で言えば、電波女。
さっきも、は眠っていた俺をたたき起こして喚き散らし、そしてはらはらと泣いた。
「ひとりじゃ眠れないの……目を開けたらザップがいなくなってるんじゃないかって心配になるの」
「しらねーよ馬鹿。いっつも俺より後に眠るくせして突然叩き起こしやがって。何がしてぇんだ」
「ふあんなんだってば」
それだけ言って、はまた目を閉じる。横暴すぎるだろ。
HLにはいろいろな人間が集まる。このヒス持ち女も、何かあってここへ転がり込んだのだろう。この女はいつからこんな奇癖を持ってしまったのか。
よく見ると、はうっすら隈を作っていた。一人ぼっち時のコイツの眠り方が気になる。睡眠薬を煽って? まさかな。
そんなふうに時々、の考えが読めないことがある。 いつも眠っている間どんな夢を見ているのだろう。職場から解雇を言い渡される夢? 家族が死ぬ夢?
ザップ、生きてる? 定期的にそう訊かないと落ち着かない馬鹿。コイツがその問いを向ける相手は、俺じゃなきゃいけないんだろうか。
の胸に顔を埋めた。素肌の温もりやらおっぱいの感触やら、俗物的なものの隙間から微弱な音が聞こえた。
とくん、とくん。
心音だ。規則正しい、命のリズム。
行為の後だというのに、のそれは落ち着いている。触れたら最後、掻き消えてしまうような頼りない心音。
……あ。
再び起きだしたの頭を軽く叩く。