Let's play our music!【うた☆プリ】
第2章 前途多難な新学期
桜の舞い散る春。
私はトランクを持って早乙女学園の前に立っていた。
「全寮制だったとは…」
早乙女学園が全寮制だったことを知ったのは合格通知の来た後のこと。
自宅から通う気でいたのに若干拍子抜けはしたが、まぁこの程度の計算外なら仕方ない。
そんなことでこの学園への入学を断るのもアホらしかったし、親をなんとか説き伏せて入寮を済ませた。
「あなたがルームメイト?」
荷物を置いて休憩していた時、部屋に入ってきた少女。
華やかな雰囲気を纏うその人は、見た目に反せずアイドル志望のようだった。
「私、伊集院華。よろしくね!」
「です…よろしく」
見た目だけでなく名前も華やかだなぁ、とか思っていた私に彼女はフレンドリーに話しかけてきた。
「ね、は作曲家志望?」
「一応ね」
「そっかぁ、じゃあいつか私の曲作ってよ!」
人懐こく明るい彼女に肩の力が抜ける。
全寮制の学園においてルームメイトは非常に大事な存在だ。
その点において、私は恵まれたと実感した。
「そういえば知ってる?アイドル志望の男子にイケメンがいるって!」
「イケメン?そりゃアイドル志望ならそれなりの顔してるでしょ」
「まぁそうなんだけど…神宮寺財閥って知ってる?」
神宮寺財閥。
聖川財閥と並ぶ日本有数の財閥だったはずだ。
華の話によると、そこの息子の1人がここに入学したらしい。
「レンくんっていってね、ほんとカッコいいんだから!も今度見てみなよ!」
「詳しいね、華」
「父親同士が知り合いでね〜、時々パーティーとかで会うのよ」
彼のことを話す華の顔はほんのりと赤い。
これはもしやと思った私は、ややニヤニヤしながら詰め寄ってみた。
「その神宮寺って人のこと、好きなの?」
「っっ!!」
すると案の定。
彼女は更に顔を赤く染めて、頬に手を添えた。
「やっぱり!向こうはどうなの?」
「や、やめてよ…それに彼は私なんて眼中にないわ」
「なんで?」
「彼は女性すべてに愛を囁く愛の伝道師なの。誰か特定の人と付き合うことなんてないから」
「へぇ…」
神宮寺、レン。
その言葉を口の中で反芻する。
その何気なく呟いた名が、今後私の中で特別な意味を持つなんてこの時の私はまだ知らなかった。