Let's play our music!【うた☆プリ】
第9章 素顔と音楽と
じりじりと後ろに下がっていた足がやがて壁に当たる。
それに気づいた頃には神宮寺さんによって逃げ場を無くされていた。
「レディ…君だって俺で遊んでるじゃないか」
「私、そんなこと…」
「俺にそんな可愛らしい反応を見せておきながら、おチビちゃんには満面の笑みを見せて…本当に、妬かせてくれるね。君に最初に名前で呼んでもらうのは俺のつもりだったのに」
左手で壁に手をつかれ、反対の手で顎に手を添えられる。
「神宮寺さ…」
「黙って」
彼の顔が近づいてくる。
これから何をされるか予想はついてたし、抵抗することも出来た。
そう、彼は強引なようでいて優しかった。
壁に手をつき、顎を固定してはいるものの私の腕を拘束してはいない。
私に逃げ道をきちんと残してくれていた。
私が嫌がることはしない、そう伝えてくれていた。
君の判断に全てを委ねる、と。
私は………
彼を押しのけることは、しなかった。
そのまま、目を閉じて神宮寺さんを受け入れた。
初めてのキスは、後ろめたさで苦い。
華の笑顔や、神宮寺さんを見つめる切ない瞳がちらつく。
申し訳なくて、苦しくて、でも目の前の人を拒絶することは出来なくて。
様々な感情が入り混じった私の目頭が熱くなり、涙が流れた。
「っ、…?」
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
この場にいない華にか、それとも驚かせてしまった神宮寺さんにか…はたまたその両方に、ただ謝罪の言葉を続ける。
突然泣き出した私に慌てた彼は涙を優しく拭ってくれる。
安心させるように撫でて、ごめんねと謝った彼に、私は何も言えなかった。
この人は何も悪くない。
ただ、惹かれてしまった私が悪いだけ。
私が心に宿り始めたこの小さな淡い想いを断ち切ってしまえばいいだけなのだから。
「ごめんなさい、神宮寺さん…」
「…どうして謝るんだい、君が。俺が無理やりやったことなのに」
「無理やりなんかじゃないから。…でも、この先はもうだめだよ」
「分かってる…だから今だけ、」
再び彼の温もりに包まれる。
そう、今だけ…私はあなたの"特別"でいられる。
そして、明日からは良い仲間に戻るのだ。