Let's play our music!【うた☆プリ】
第6章 それは春のように
「、ただいまー!」
勢いよく開く扉。
ほかほかで気分も高揚しているのだろう華はタオルを首にかけていた。
「…って、あれ?」
しかし室内には誰もいない。
私も、神宮寺さんも、華の視界には入っていないはずだ。
なぜなら、
私達は今、クローゼットの中に隠れているのだから。
「…っ、…」
「静かに、レディ」
神宮寺さんに引っ張られて入れられたそこはもちろん人が入るようにはできていない。
2人も入ったら窮屈なのは当たり前で、バレないように、物音を立てないように、私達はかなり密着していた。
神宮寺さんのさらさらの髪が、顔やら首やらに当たってくすぐったくて、でも身をよじる事は出来なくて。
互いの吐息さえ感じてしまうこの距離に、私は頬が紅潮するのを抑えられなかった。
心臓の音がうるさくて、彼にまで聞こえてしまいそうで。
そんな自分の顔なんか見られたくなくて、彼のシャツに顔を埋めた。
「あれ、どこいったんだろ…電気もつけっぱなしで…」
私が外出中だと思ってくれた華は部屋の電気を消すと、首をかしげながら外に出る。
私を探しに行ったのだろう。
暫く用心してクローゼットの中にいた私達だが、やがて息を吐くと外に出た。
「…危なかった…」
「華もタイミングが悪いね、まったく」
いつ華が帰ってくるかわからないし、俺はこれで失礼するよ。
そう言って神宮寺さんは帰って行った。
それを見送り、カーテンを閉めた私は、やっと落ち着けるとベッドに寝転がる。
偶然視界に入った手には、まだ彼の温もりが残っていた。
「そういえば、さっき何を言おうとしたんだろう」
華が帰って来る直前、彼に声をかけられた。
その要件はなんだったのだろう。
「…ま、いいか」
これからいつだって聞ける。
彼は学園にいるのだから。
そう思ってその疑問を一旦打ち切った私は、明日を思い描いて目を閉じた。