Let's play our music!【うた☆プリ】
第1章 それがすべての始まり
近所に住んでいた4つ年上のお姉さんが作る曲が大好きだった。
その人みたいに音楽を紡げるようになりたくて、肩を並べられるようになりたくて、必死に追いかけた。
「麗奈、私頑張るから!」
「ハイハイ、頑張れ」
いつも軽くあしらわれていたけど、その目が優しかったことは今でも覚えている。
あの人は私を待ってくれている。
そう信じて走り続けた。
その後麗奈は高校生になるとすぐに自身の曲を様々な芸能事務所に持ち込み、結果として大手事務所に拾われたらしい。
気がつくと彼女は住んでいた家から寮に移り、私の目の前から姿を消していた。
それ以降、色んなCDの作曲家の欄には彼女の名が載るようになって、マスコミに期待の新人だと騒がれるのを私はただ見ていた。
麗奈の家がかなりの財閥だったのにも関わらず、その家とは縁を切っているというのを知ったのもその頃だ。
パパラッチの書くことだから正しいかは分からないが、彼女は名家の生まれではあるが愛人の子であり、実質追い出されたらしい。
当時の彼女はマスコミの格好の餌で、有る事無い事書きまくられていたけれど、そんなことは関係なかった。
私の中にあったのは彼女と自分の間の距離に対する焦燥。
私がスタートラインにすら立てていないのに、麗奈は作曲家として最先端に立とうとしている。
その差に焦っていた高校1年、16歳の秋。
20歳となり今一番波に乗っている人気作曲家と呼ばれるようになった彼女が再び目の前に現れた。
「久しぶりね、」
「……麗奈」
4年振りの麗奈はとても大人びていた。
芸能界という苦しい世界で生き抜いてきたからだろう、かつて瞳に宿っていた夢への憧れはもう無かったけれど。
「あなたに用があって来たの」
「私に?」
「そう…いらっしゃい」
彼女に連れられて行ったのはレコーディングルーム。
私は言われるがままマイクの前に立ち、言われるがままに曲を歌った。
昔から彼女の曲が好きで、よく勝手に歌詞を書いて歌っていたからその行為自体に不信感はなかった。
問題はそれがレコーディングされていたことだというのに、私は全く考えが及ばなくて。
満足げに微笑む麗奈に首を傾げながらその日は別れた。
その意味を知ったのは、レコーディングから3日後のこと。