第1章 純粋な死神 グール 鈴屋什造
一気に視界がにじみ、つうっと目から雫が流れる。鈴屋は不思議そうに首をかしげる。
「泣くほどつらかったです? じゃあ、秋良には特別にハグしてあげましょう」
言って鈴屋は抱き付いてきた。彼は温かくて、心にしみこむほど温かくて、声をあげて泣いた。鬱屈としてどこにも逃げ場のなかった私の感情は今吐き出された。
お父さんごめんなさい。お母さんごめんなさい。助けられなくてごめんなさい。
喚き散らす私に彼は泣き終わるまで抱きしめてくれた。それがまた私の涙を湧き出させた。
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泣き終ってみるとひどく恥ずかしい。ゆっくりと体を離して私はうつむいた。
「ご、ごめんなさい。」
「なにがです?」
「えっと……色々……」
目を合わせられず地面ばかり見る私に鈴屋の手がほほに触れる。鈴屋は私の頬を両手でつかみ、無理やり顔をあげさせた。
そしてゆっくりと顔が近づいてきて舌が肌に触れる。あごから涙の痕をなぞるように舐めた。柔らかな感触。ぞわりとしてその部分から火照るような感覚。
私は驚いて顔を赤くして目をつむった。逃げようにも顔を抑えられているので逃れられなかった。
「おかしいですねー」
本当に不思議がっている鈴屋が顔をしかめる。
「秋良の涙は甘いと思ったのにしょっぱいです」
「そりゃ、そうだよ。涙はしょっぱいよ?」
クスリと笑って私が言うと鈴屋は何か思いついたような表情をして、また顔を近づけてきた。
触れたのは唇だった。鈴屋は満足そうにうなづく。
「やっぱり! 甘いですー」
もう一度彼の顔が近づいてくる。私の頭はもうわけがわからず彼のなすがままにされた。
何度も、何度も、何度も、触れ、噛まれ、ついばまれる。
私の頭はとろけてしまっていて正常な反応が出来ない。ただ、嫌な感情はなかった。
やっと唇が離れ、鈴屋は嬉しそうに笑った。
「まだ、してもいいです?」
私はうなづいて彼の熱を待った。吐息や、重ねられる唇が、愛おしい。
彼のことを他の人は悪魔のように言うけれど私には逆に見える。
彼は何も知らない無邪気な天使のようだった。
そのあと彼は鈴屋什造と名乗り数々の戦功を上げていく。
その技量は喰種に恐れられる。だけど、私は思うのだ。
彼は今も昔も変わらない。彼ほど純粋できれいな死神などいないのだと。