第8章 世界の美しさを知る リンク夢
まだまだ続いているAKUMAの言葉を私は聞きながら不敵に笑った。
驚いているAKUMAなど無視して私は最後の力を振り絞ってイノセンスに込める。
「リンクはさ、そういうことが言えないからかわいいんだよ」
まがまがしいほど力を溜めこんだイノセンスが光りだす。私の持っているブレードが何倍にも大きくなり月の光などものともしない光源となった。
適合率がもうおかしくなって自分は死ぬかもしれない。でもそれでもかまわなかった。
恐れおののいたのか攻撃を避けようとしたがもう遅い。
「さよなら、哀れな魂さん」
そう言って私はブレードを振り下ろす。刃はAKUMAを溶かすように消滅させていった。
そしてイノセンスが徐々に光を失っていき、また闇に戻る。
戦いが終わった。AKUMAはもういない。力が抜けてへたり込んだ私は一つの亡骸ににじり寄る。
「・・・・・・なんで、私かばっちゃうかなぁ」
リンクはただ眠っているようだった。でも、もうむくりと起き上って小言を言うことも、菓子を作ることも怒ることも何もできない。おそるおそる手を伸ばす。触れた瞬間、いろいろなものがこみあげてきて涙を止めることが出来なかった。
その時私は初めてリンクの死を実感した。
慟哭のような私の泣き声は響いてしばらく止まらなかった。
涙も枯れ果てて、ただぼんやりとしていると視界の端がきらりと光った。
その方向を見ると淡く空が赤くにじんでいるのが見えた。朝だ。
朝日が昇る。それは見たことがないほど美しく輝いて見えた。今まで見たどの光にも敵わない苦しくなるほどの斜光が私に差し込まれる。また一筋涙がこぼれた。
明日などもうどうでもよくなったというのに、世界には太陽が昇る。
横で眠りについた彼の髪をなでながら私は思わずつぶやいていた。
「ねぇ私、生きてるよ、リンク……」
あなたの遺言を守ることができたよ。また喉の奥から何かがせりあがってきそうだったけれど、それを我慢して私は思う。
涙が出るほど美しいものを見て、同時に私のいるこの場所がひどく汚らしく見えた。
ねぇ、神様なぜ私はここで血みどろなの?死屍累々のこの屍の中で、何故私は朝日に涙が出るのだろう。わからない、わからない。
私以外が息をしないこの場所で、ひとりでに出る涙に混乱しながらずっと太陽を見続けた。
