第8章 世界の美しさを知る リンク夢
月明かりしかない寒空に剣戟が響く。
レベル2のAKUMAが下卑た笑い声をあげながら刀に模した棒切れを振り回す。
私はそれをいなしながら冷静に相手のすきをうかがった。敵の特性は、夜でも視界が明瞭で人体の急所を正確に見つけることが出来る目の良さだった。非情に厄介で危険な敵だ。
「哀れだなぁ、えくそしすとぉ!」
的確に急所を狙ってくるAKUMAに、私は唇をかむ。刃をよけて受け流す。そうやって防戦一方の私を見て、AKUMAはより一層笑みを増す。
「お仲間ちゃんはもうみんな逝っちゃったよぉ、君ももうそろそろ死んじゃったらぁ? アハハハハ」
相手は確実にこちらの集中力を削ごうとしている。逆上させた相手ほど斬りやすいからだろう。唇をさらに強く噛んで血がにじんできたとき、追い打ちのように敵から言葉が投げかけられる。
「君を守って死んだ奴なんて最高だったじゃない」
私の中で怒りが膨れ上がる。それが見て取れたのかAKUMAはにやりと笑い私から距離を取った。
「攻撃受けきれなくて倒れこんだ君にさぁ、僕が殺してあげようと思ったらあいつ間に入ってきて斬られてさぁ。それからがまた最高だったよね。固まって動けない君の代わりに何度も何度も何度も何度も何度も何度も僕に斬られちゃってさぁ、もうおかしくてたまらないよね!? 人間の素晴らしい愚直さだよ! その間にあいつ何か君に言ってたけど告白でもされたのぉ? おっかしいよね!ほんと!!」
奴から吐き出される腐りきった言葉を聞きながら、私は彼の言葉を反芻する。彼の言葉は愛の告白ではなかった。
彼の言葉はこれからそばにいれないことの謝罪と生きることを諦めるなというものだった。AKUMAの言う通り愛の告白だったらよかったのに、と思わないでもない。
本当にもっとましなことが言えないのかと思ったが、実直な彼らしい言葉だった。