第7章 誰かの雨 神田夢
かすれて震える声で私は神田に聞いた。
「ねぇ、神田」
「あぁ?」
彼の声はすでに面倒くさそうだ。
「――お願い、聞いてくれる?」
声音がいつもと違うのに気が付いたのだろう神田は不快そうにはしなかった。
「なんだ」
怪訝そうにこちらを見る彼に、私は彼の腕を離し、おそるおそる手を伸ばし神田の手に触れる。ひどく長い間だったように思う。
血の雨粒が落ちる音しか聞こえない中で私は彼の反応を待った。神田は目を丸くしたが、それ以外は反応せず私の手を軽く握り返した。ゆっくりと優しく。
さっきのような気持ち悪い温かさではない。じわりと心が温かくなるような人の体温だった。それだけで私の不安は少しだけ溶けた気がした。そして私たちはAKUMAの山を降りていく。
気が付くと黒い雨はもう止んでいた。