第9章 9
イタリアの冬は雨が多い。
降り続く雨は私の心を映しているようだった。
演奏会のあと以来、朝日奈さんと会うこともなく、連絡も取れていない。
自分から連絡をすればいい、と頭では分かっているが、気が進まなかった。
そして朝日奈さんの事を忘れようと音楽に打ち込んでいるあいだに年末年始が過ぎ、街は落ち着いた雰囲気を取り戻している。
そして私は明日、帰国するのだ。
今日までの1週間、昼間は学校の授業と帰国のための身辺整理を、夜は私の帰国が近いからと友人たちが毎晩のようにパーティーを開いてくれた。
先生たちも暇があればそれに混ざり、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだった。
陽気なイタリアの人たちに囲まれ、忙しく立ち回っていると感傷に浸っている暇などないが、ふと一人になった瞬間、隙間を埋めるように朝比奈さんのことを気にしてしまうのだ。