第4章 運動神経無いだけで
元々大きいと思っていたダイニングよりも、更に大きな部屋。私の背丈よりも大きいと思われるガラス張りの窓からは、庭らしきものが見える。
「じゃあ、とりあえずこっちの世界の麗華ちゃんが得意だった剣術からやりましょっか」
「う、うん」
私は先程のドレスよりも動きやすい服を一瞥してからエリックを見た。
エリックは細くて長い、いかにも外国っぽい剣を一本私に渡した。
「これはレイピア。細めだから軽いし、麗華ちゃんが扱いやすいって、これを使ってたんだよ」
「……か、かる…かるい…?」
私はその両手に持ったレイピアをジッと見つめる。
「重く感じるのは私がしょぼすぎるから…?」
「いや…慣れじゃないかな? まぁ、でも。麗華ちゃん鍛えてたから、感じだけ捉えちゃえばすぐ出来るよ」
そう言うと、エリックは私の斜め前に立ち、剣を抜いた。
「まず体勢。右足が前、左足が後ろ。肩幅位に開いて、左足は少し斜め外に向く。…足だけでやってみて?」
「こう?」
私は見よう見まねでエリックと同じように立ってみる。
「そうそう。で、膝はこのぐらい曲げる」
なぜだろうか。異常にこの体勢はしっくりくる。
私はその先をエリックに言われる前に、勝手に動いていた。
「?! そう。麗華ちゃんそれで合ってるよ」
「…体はこの体勢を覚えてるみたい…。勝手にその形に動いてくれる」
「…じゃあ、突きをやってみて?」
エリックはそう言うと、レイピアを構え真っすぐ前に突き出し「こう」と言った。
「うん」
構えも体が教えてくれた。なら技だって…。
「せいっ!!」
出来る……はずなんだけどな…。
「あ…あれ…」
私の体勢はエリックとはとても似つかず、へにゃへにゃと腕は曲がり、腰はさっきよりも低い位置にあった。
「出来ると思ったんだけどなぁ…」
「……クスッ」
私が普通に立ってレイピアを見つめながら言うと、エリックはそう笑って、それを引き金に大きく笑い始めた。
「ちょっ、初めてなんだから仕方ないでしょ!」
「ククっいやっ、そうじゃないよ…そうじゃないんだ…クスクスっ」
私は少し恥ずかしくなって「もー…形から教えてよ。「こう」じゃなくてー」とほほに空気をためながら言った。
「分かりましたよー」
エリックはまだ笑いながらそう言った。