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melancholia syndrome

第7章 二人きりの夜


お祭りのあった翌日。

天気は見事なまでに嵐となっていた。

先生が言っていた通り花火大会もこの嵐では行う事は不可能だっただろう。

「風…ひどくなる一方だな〜」

ぼんやりと窓の外を見つめると強い風にしなる木が折れてしまいそうだと思った。

「唯ちゃーん、ちょっといいかしら?」

呼ぶ声に振り向くとキッチンから戸塚さんが顔を出した。

「これ、拓也の部屋に持ってってくれないかしら?」

そう言って戸塚さんはお粥の入ったお盆を渡す。

昨日の夜、帰ってきた途端に先生は体調不良を訴えて、今日は部屋で寝たきりの状態なのだ。

「ごめんね、本当なら私が世話をすればいいんだけど仕事が溜まってて…」

戸塚さんは申し訳なさそうな顔をして謝る。

「せっかくの夏休みなのに本当に申し訳ないわ」
「大丈夫ですよ、どの道この天気だと外に出るのも困難ですから」

なるべく努めて明るくそう言うと戸塚さんも安心したように微笑みキッチンを後にした。

「さて…先生の部屋に持って行かないと…!」

お粥が冷めない内に持って行こうと思った私は足早に先生の部屋へ向かった。

コンコン

「先生、お粥持って来ました」

ノックをし声を掛けるが返事がない。

「まだ寝てるのかな…」

もしかしてと思いドアノブをひねると

ガチャ

ドアはいとも簡単に開いてしまった。

「失礼します…」

一応もう一度だけ声を掛けるが返事はやはりない。

部屋の中央では布団を被った先生がぐったりと横たわっていた。

「…はぁ……はぁ………」

苦しそうに息をする様子からかなり辛いのだと見受けられる。

「先生、大丈夫ですか?」

お粥のお盆を置き、先生に問い掛ける。

「ん……」

ようやく私の声が届いたのか先生はうっすらと目を開けた。

「お粥、食べられそうですか?」
「…。」

寝ぼけ眼の先生はぼんやりと私を見つめている。

やっぱり、まだ食べられないかな…

そう思った私はお粥の乗ったお盆をキッチンへ返そうと思い、お盆に手を伸ばそうとした。

グイッ

だが、その手は先生によって掴まれてしまった。

「先生?」

何か要るものとかあるのかな?

「み…う……?」
「え?」

先生はかすれた声で何かを呟く。

「美羽…」

そしてはっきりとその名を口にした。
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