• テキストサイズ

ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない


 「理花ー! はよーっ」
 朝の教室。朝部活に行っている人がほとんどで、いるのは部活不所属の人達ぐらい。
 そんな中で、朝っぱらから元気に声をかけてくる、愛里さんの姿がそこにはあった。
 「…おはようございます」
 「ってまだ敬語ー? 「おはよう」って言ってみてよー」
 私が席につきながら言うと、愛理さんは近くに寄ってきて、言いながら手を振る素振りを見せる。
 「…お、おはよ…う…?」
 「そうそう! にぃ達にも敬語じゃ無くていいんだよ?」
 「えぇ…?」

 愛理さんの言う「にぃ」とは、景一さんの事らしい。それを昨日聞いてから、2人を見比べてみると、確かに、少し似ているところはあると思う。

 「無理ですよ。先輩ですし」
 「えぇー。ってまた敬語だし…」
 愛里さんに指摘され「すみませ…ごめん」と言いなおして口に出す。
 「祥太先輩には結構喋れてるのにねー。理花」
 そういえば、今朝から愛理さんは私の事を「理花」と呼び捨てで呼んでいるようだ。正直なところ、そういう考えは私には……。
 「…?!! い、いやいやいやいやいやっ! そそそんな事無いです!!」
 「敬語」
 「そっ、そんな事…ないよ…」
 愛里さんは「はぁあ…」と長めにため息をもらすと、私に向いて優しい笑みを見せた。
 「まぁ…。アタシの事、友達と思ってくれていいからね? あまりそーいう風に考えてないみたいだから」
 「…えっ?! で、でも…」
 私がしどろもどろになっていると、愛理さんはニカッと笑って「でも、も待った、も無し!」と言った。
 「これはアタシのお願い! 敬語とタメ呼びは徹底してね! よろしくっ!」
 そう言い終わると、自分の席にそそくさと帰って、何かノートのような物を書き始めた。
 …宿題かな。

 「敬語」と「さん付け」を、お願いとして禁止されたのは、初めてだ。

 少なくとも、私にこれほど近づいてきてくれる人は、いなかったと思う。

 いたとしても、私がはじいたりしただろう。

 今の私は何だ…?

 心境の差か、それとろ愛里さ…愛里のやり方が良いのか…。それとも…。


 私は小さく笑って、鞄の中身を取り出し始めた。


 変わった。それだけは確実に言えると思う。


 考えも、心境も、思う事も…。





 それはいい事か、悪いことか…。
/ 31ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp