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ありがとうが言えなくて

第4章 思い出してる、思い出せない


 私は息を大きく吐いてから、また少し距離をおいた。
 「とっ、とりあえず「行こ」とだけ言われても、全然意味がわからないです…。どこに行くんですか」
 私の顔がまだ赤いせいか、クスクスと笑いながらも答える祥太さん。
 「まー。どこに行くとか、ちゃんと決まっては無いけど、とりあえず俺の友達に理花を紹介して、その後どっか行こうかな…みたいな?」
 「「みたいな?」じゃないです。そういう事ちゃんと言ってからにしてください」
 たいして悪びれた様子もなく「ごめんごめん」と口先だけであやまると、祥太さんは前の方を向いてパッと表情を明るくした。
 「祥太おっせーよ」
 「まあまあ。勇生はそんなに言わなくても」
 「Yeah! 本当にそうよ。実際、勇生は私達よりも3分遅かったじゃないの」
 男の人が二人、女の人が一人。胸ポケットのラインは全員青。多分紹介したかった友達とはこの人たちの事であろう。
 祥太さんは、私が初めてみるような輝かしい笑顔をみんなに見せていた。

 「ガタっ!!」



















 
 何だろう。
 何でこんなに苦しいんだろう。
 
 昔にも感じたことのあるこの辛さは、こんなにも私の胸をしめつける。
 
 苦しい…。痛みとはまた別の、心の苦しさ…。
 
 その時、瞬きをした瞬間に見えたのは、明るい笑顔で私の手を握る、中学生くらいの少年だった。

 これは多分……過去の記憶。無意識のうちにそう思った。なのに、彼が誰だか覚えていない。

 ―――理花!―――
 
 その声が、過去の記憶の声と、現実世界とで重なった。

 呼ばれている。あれ……何で呼ばれてるんだ…。
 
 「理花! おい理花!」
 「どうしたんだ…いきなり倒れたぞ……」
 だめだ。頭がクラクラする。何が何だか、よく分からない。
 「理花!!」
 まただ。またあの少年の顔が浮かんでくる。
 お願いだから、その笑顔を見せないで…。苦しくなる。胸が苦しい…。




 そこで私の意識は途絶えた。
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