【ハイキュー】ひとなつの (poco a poco2)
第7章 一日目 夜 (雨と猫と彼)後編
立花は黙って月島の話を聞いた。
普段は自分のことを話すようなタイプではない彼が、
今、部員ですらない自分にこの話をしているということの意味を考えたら、
立花は胸が苦しくなった。
「立花先輩は、菅原さんのことを見てて、どう思うんですか。
3年間やってきて、去年まで公式戦にはおそらくほとんど出ていませんよね。
今年になってからも、影山にポジション取られて、それでも毎日練習している姿を見て、惨めだなとかかっこ悪いなとか思わないんですか。」
「思わない。」
「キレイ事じゃなくて?」
「だってこうちゃんは楽しそうだし。充実してるんだなって思ってた。
でも今は、それだけじゃないんだよね。」
立花は、
うまく言えるか分からないけど、
と前置きをして話し始めた。
「3年間、私は何もないの。きっとこのまま卒業していくと思う。
でもこうちゃんには、ぎっしり詰まった高校生活がある。
楽しいことばかりじゃないだろうけど、
逃げて全部手放すよりずっといい。
私は、逃げたから何もない。
逃げなければ、残念賞ぐらいは手に入るんだよ。
たとえ残念賞でも、絶対にその先の人生の糧になる。
幸せな記憶ってね、人を生かすんだよ。」
立花は月島に向かってはっきりと言い切った。
「なんていうか……
武田先生に負けず劣らずのポエマーですね、立花先輩。」
「あ、ごめん……。
でも、今の話聞いてたら、
月島君の場合はさ、お兄さんと同じ烏野に来て、バレーを続けてるっていうだけで、充分伝わるものはあるけどね。」
「……どうでしょうね。」
「あ、そうだ。忘れてた。これ、はい。」
立花はポケットに入ったままになっていたDVDを差し出した。
「あ、どうも……。これ届けに来る途中だったんですか。」
「うん。すっかりそれどころじゃなくなっちゃったけど。」
そう言って笑った。