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獄都二居座ル狐ノ子

第2章 壱


あの時の私は今何も知らなかった。
昔から私は争いを好まない性格だったため、獄卒というものについてしっかり理解をしていたら、今の私はいなかったのかもしれない。

屋敷のドアを開けると、屋内にはとてもいい香りが漂っていた。カレーの匂いだ。
そういえば谷裂さんがキリカさんに献立を提案していた。流石はキリカさん、準備が早いな…。
一階の執務室に肋角さんの姿はなかった。それに今居る一階で一人も獄卒の姿はいなかった。皆食堂へ行っているのだろう。

二階へ続く階段を上り、食堂へ向かう。匂いがどんどん近くなってきた。
そして食堂のドアを開けると、予想通り皆が席に座っていた。
並べられた茶碗とコップに、あやこさんがそれぞれ飲み物を汲みに回っていた。キリカさんは大きな皿に炊きたてのご飯を盛り、その上によく煮込まれたビーフカレーをかけていた。
変わらない昼食の風景だ。
汲まれたオレンジジュースを一気に飲み干した同僚の一人・平腹が私に気付き、大きな声で私を呼んだ。
「狐織ー!!!!おかえり!!!!!!!」
「わざわざありがとうございます。ただいま戻りました。」
その声で全員が私に視線を移した。
大勢から向けられる視線は苦手だ。視線を少し低くして、平腹の向かいに座る同じく同僚の田噛の隣に座った。
「おかえり」
「はい。ただいま戻りました。」
田噛が横目でこちらを見て、珍しく声をかけた。そのあと怠そうに「寝みぃ…」と大欠伸をした。今日は非番なのだろう。
飲み物の注文を聞きに来たあやこさんに緑茶を頼むと、直ぐに急須で入れてくれた。
「よし。では仕事に出ている者以外全員揃ったな」
肋角さんが立ち上がりつつ私を見た。目で[ご苦労だったな]と言われているようだったので、一応会釈をした。
「それでは挨拶をするぞ。…いただきます!」
パン!と大きな両手を合わせて肋角が挨拶をした。と同時に同じように「いただきます!!」という男性の声のみで形成された挨拶が部屋に響く。
あまりの声量に驚いてしまうのはいつものことだ。個人で手を合わせ、挨拶をする。
「…いただきます」「いただきます」
一人で発した筈の声が綺麗に和音を作る。
獄卒内で二番目に成績の良い優等生・佐疫の声だ。
彼も声が重なったことに気付いたらしく、視線を向けると、綺麗な青の目を細めて笑いかけてきた。
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